「男女の間に友情」は成立するのか?
巷間にあふれる雑誌やテレビ番組などで、
手垢にまみれ擦り切れてるようなテーマではあります。
個人的な見解では「有り得る」と断ぜざるを得ません。
が、しかしそれはどちらかが相手に対し、
「異性」を意識してしまった時点でその関係は脆くも瓦解してしまう、
非常に綱渡り的な危うい関係性を秘めている訳であります。
したがって、そのような危うい関係であるが故に
人々を引きつけて止まないテーマなのでありましょう。
ここに一組の男性と女性の「友人」がいるとしましょう。
その友人同士は、同じ布団に雑魚寝出来るような、
お互いに「異性」というものを意識しない間柄です。
つい最近、その女性の方に、彼氏が出来ました。
お相手は会社の人間でした。
同じ社内でもフロアが違うので、
そうそう顔を会わすことはないのですが、
携帯のメールだったり、はたまた内線電話だったり、
周囲の人たちには内緒ながらも、
ちょくちょく連絡は取り合ってる訳です。
つい最近も二人で伊豆へ旅行に行ったらしく、
照れくさくも幸せそうに語る彼女の姿を見て、
男性の方は思いました。
女性は恋愛をすると変わる…もっと言えば、綺麗になる。
よく聞くことですが、そのことを実際に目の当たりにして
「やっぱりそれって本当だったんだなあ」
その男性はつくづくそう思います。
女性と、そのお付き合いすることになった彼は長い付き合いで、
しかもその女性の直属の上司。
あくまでも「仕事上の」お付き合いであって、
お互いこういうふうになるなんて実際思ってもみなかったから、
つくづく男女の間って不思議なものです。
実はその友人の男性とも、負けず劣らず長い付き合いなのですが、
その男性とはどこまで行っても「友達」
一度、お互いにあんまり浮いた話がないので、
「付き合ってみようか?」
どうやらお互い周りから見ても
「お似合いのカップル」
みたいだし、当然誰よりもお互いを理解してる。
それに何より一緒に居て楽なのです。
どちらからともなく、
そんな話の流れになるのも自然なことでした。
しかし、何度か彼氏彼女として改めて「デート」を重ねても、
どこか心と身体が一致しないのです。
どこに遊びに行こうが、どこに旅行に行こうが、
二人はどこまで行っても結局は「友達」だったのです。
二人は、あまりにも長く付き合ってきたために、
もうドキドキのない「友達」になってしまったのでしょうか。
でも、
片や同じく長い付き合いでも「異性」を意識出来る相手もいるのです。
…この違いって何なんだろう?
男性の方は、そう思ってしまいます。
でも、同時にそんなことを考えたって答えは出ないことも
心のどこかで知っています。
心と身体は密接な関係を持っていて、
理屈では割り切れない物だからでしょう。
一方、別なところに一人の男がいます。
かつては何百人といる暴走族のリーダーで
地元では知らない者のいないほどの男でした。
「男はね、死ぬほど惚れた女だったら、陰で幸せを祈るものなんですよ」
まるで自分自身に言い聞かせるかのような、
少々自己陶酔気味にそう言って、水割りを一気に飲み干しました。
その男にとって、このセリフは大のお気に入りで、
特攻服に刺繍を入れてたり、バイクに書いたり、
そこらへんの至るところに書きまくる困った男なのですが、
妙に愛嬌があって憎めない男です。
本人はモテるモテるなんて言ってますが、
本当は知っているのです。
札付きのワルで、見た目も怖そうで、
周辺の敵対する暴走族の人間からも恐れられてる男も、
本当に心の底から好きになった女性の携帯番号とか
メールアドレスを聞く時に、指が震えるってことを。
そして、そうやってやっと連絡先を聞き出し、
心から大事にしたいと思う相手ほど、上手くいかなかったりする。
相手の女性曰く「良いお友達でいたい」と。
もう会わなくなって久しいけれど、
今となってはその男の言葉を思い返し、
しみじみと噛み締めたりします。
「男はね、死ぬほど惚れた女だったら、陰で幸せを祈るものなんですよ」
例え友達としてでも、心から好きな人の近くに居られるのならば、
敢えてその脆くもはかない幸せを、せめて壊さないように、
相手の幸せを陰からそうやって祈るのも、
これはこれで一つの恋愛の形なのかな…と、
男はそう思った夜なのでした。