最終電車は良い。
最終電車は、しみじみとしている。
基本的に終電の乗客はアルコールが入っている方が多い。
特に頭部がバーコード状になっているようなタイプの
お父さん方の会話…。
(大声で喋ってるから否応なしに耳に入ってしまう。笑)
たちまち『家がどんだけ遠いか自慢』みたいになるのだった。
(例)「ワタシはもうこの時間だと都営新宿線から新宿で、
そっから小田急線に乗り換えて鶴川駅からタクシーなんですわ」
「ああ、そうなんですか、ワタシの方は新宿から中央線で、
武蔵小金井まで行ってそっからタクシーに…」
そんなことを若干ロレツの回らない口調で言い合いしながら、
「本来ならば…」と話は続く訳ですな。
その口調には無念さというか、
若干のやるせなさがにじみ出ています。
それも当然です。
毎月少ないお小遣いで必死にヤリクリしている
お父さんたちであります。
本当だったらタクシーなんて使いたくないはずなのです。
それなのに定期だって買ってるのにタクシー代で痛過ぎる出費だわ、
バスとか特に早く終わってしまうし、
あのバカ専務が調子に乗って延長なんてしやがるから
俺がこんな目に遭うんだクソッタレ!等々…
ぶつけようのない怒りにうち震えているようにも見えます。
みんなそれぞれに、ツラいこと、悲しいこと、
苦しみや悩みを抱えながらも、
それと向き合って必死になって頑張っているんだな。
『毎度ご乗車ありがとうございます。本日の下り電車の最終になります。
くれぐれもお乗り過ごしのないよう、お気をつけ下さい。
尚、上り電車は既に終了しております。
乗り過ごされても折り返しの上り電車はございません。ご了承下さい』
そんな車内アナウンスを聞きながら、
シートに深くもたれ心地良い疲労に包まれていた男は、
読んでいた文庫本を静かに閉じる。
そうして、「しみじみ度」を更に加速させて
最終電車は夜の闇を切り裂きながら走って行くのだった。
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