2008年01月06日

Next Stage

「・・・あら?痛いんだったらハッキリ言ってくださいね・・・」

「・・・は、はい」



仕事場のすぐ近所の整体院。

俺はうつ伏せになってマッサージを受けている。

そして普段通り、その女性スタッフと軽口を叩きつつ、
その何気ないやりとりを楽しんでいるところだ。

その、穏やかな、ゆったりとした時間がにわかに変わったのは、
俺の不用意な(後から考えれば、だが)一言だった。

その女性スタッフは、
キロロのピアノを弾いてる方に微妙に似ていて、
南方系というか、ハッキリとした顔立ちで、
いかにも情が厚そうな雰囲気を全身から漂わせている。

こういう仕事をしているから、
誠に当然ではあるけれど力も強くて、
腕力に割りと自信がある俺ではあるが、
彼女にはタジタジになることも決して少なくない。

「・・・何かスポーツとかやってたの?柔道とか、レスリングとか・・・」

「やめてください」

ピシャリと言い放つ。

「こう見えても私、おしとやかで通ってるんですからね」

「おしとやか、ねぇ・・・」


俺のその言い方に、彼女はあからさまにムッとしたようだった。

「それでおしとやかだったら、
そこら辺歩いてる人みんな・・・いだだだだだだッ!!!」

急に腰の辺りを揉む力が増す。

・・・そこで冒頭でのやりとりにつながる訳だ。

彼女はここの整体院に通う人(お年寄りが圧倒的に多い)から、
とにかく好かれているのは確かだ。

実際、孫の相手に・・・なんて話も一度や二度ではないらしい。

「へぇ。世間の嫁不足ってのは深刻な問題なんだねぇ・・・はぐッ!!!」


そこまで言いかけたところで、
俺の腰はガキッ!!とスサマジイ音を立てて奇妙な形でねじれた。

「・・・だいぶ腰は痛んでますねぇ」

彼女は極めて事務的に、
いや、そう俺に見られてる時点で失敗なのだが、
機械的に振る舞い、あまり抑揚のない声でようつぶやく。
内心全く違い思いなのは日を見るより明らかだった。

「それから・・・」

「ひッ!」

彼女はキッ、と俺を見下ろす。
その表情は険しく視線は鋭い。

片や、それを見返す俺と言えば、
車にひかれてしまったアマガエルのような無様な格好であり、
この時点でも勝負あった!という感じでもある。

重苦しい沈黙の空気が包む。

依然として施術しては貰ってるものの、
二人の間には隙間が出来てしまったかのようだった。

シュンシュンという加湿器の音だけが、その隙間を埋める。

「・・・それから、昨日、お昼に角のマツキヨの前を歩いてたでしょ?」

「ああ、歩いてたかな・・・」

「その時に私がせっかく挨拶したのになんで無視したの?」

「いや、だって、俺、目が悪いからさ、
それで・・・気づかなかったのかな・・・多分」

意外なセリフに額にジワッと汗がにじむ。

それは決して効き過ぎる暖房のせいではなかった。

「・・・ふうん。ニヤニヤしててイヤらしい。
どうせまた変なこと考えてたんでしょ」

「なッ!!何を、この・・・!!」


グギッ!!!!

そこまで言いかけ、上半身を起こそうとしたところで、
必殺のヒジ、とヒザのコンボを食らう。
痛みのビッグウェーブが俺を襲う。

ああ、これだったらまだ腰の痛みの方が耐えられるな・・・

徐々に暗くなっていく視界の中、
そんなことをぼんやりと考える。

レディファースト

やっぱり先達(せんだつ)はあらまほしきもの、なのであるな。

『徒然草』兼好法師も、そうおっしゃってた。


次からは十分気をつけよう。


その、『次』が来るならば・・・


posted by RT at 22:49| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 夢想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

腰が痛いのは辛いものです。
私も14年間悩まされました。

私が考案した腰痛解消法をお試しください。
現在、日本で一番多く実践されるようになりました。

【3分腰痛解消法】で、検索すると見つかります。
腰をお大事に。
Posted by 腰痛アドバイザー at 2008年06月03日 17:31
コメントありがとうございます!

お蔭様で今は落ち着いてますが、
今度試してみたいと思います。

Posted by RT at 2008年06月04日 12:04
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